Dental Monitoring SAS v. Align Technology, Inc.
(Fed. Cir. Aug. 10, 2026)
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― AIA §102(d)(2)と仮出願に基づく先行技術日の判断 ―
仮出願を引例として使う際には本出願の少なくとも一つのクレームのサポート(112条(a)項の記述要件を満たすサポート)が必要!
Summarized by Tatsuo YABE on
2026-08-13
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1.事件の概要
本件は、Dental Monitoring(Dental)が所有する米国特許10,755,409(409特許)について、Align Technology, Inc.(Align)が申し立てたIPRに関するCAFC判決である。409特許は、患者の歯列(dental arch)の画像を取得し、その画像をdeep learning
deviceによって解析して画像の属性値(image attribute)を求め、その値を基準値(setpoint)と比較し、必要な場合には撮影者に画像を再取得するようメッセージを送る技術に関する。概略すると、
歯列画像を撮影
- deep learning(DL)による画像解析
-
画像の品質等を示すattributeを求める
-
setpointと比較
-
不十分なら再撮影を促す
というものである。
Align(IPR請求人)は、Salah、Carrier及びManinisという3つの文献を組み合わせ、409特許のクレーム 1–15は自明であると主張した。本件で特に問題となったのが、Carrier(U.S. Patent Application Publication
2021/0068923)を先行技術として仮出願日を利用できるか?すなわちCarrierの仮出願日がAIA 102(d)(2)の「有効出願日」を満たすかである。
2.出願日の関係
本件の重要な日付を簡略化すると次のようになる。
このため、Carrierが本出願(原)の出願日(2017年11月3日)しか利用できないのであればAIA 102(a)(2)の先行技術としてDentalの409特許を攻撃できない。一方、Carrierが2016年11月4日の仮出願日まで遡ることができればDental409特許の先願となり、AIA 102(a)(2)の引例となり得る。
したがって、「CarrierはAIA 102(d)(2)により仮出願日まで遡ることができるか?」が本件の中心的争点となった。
3.Carrierの技術内容
Carrierは、患者の歯の画像を適切に取得するための方法及び装置に関する。Carrierの仮出願には、患者の歯を所定の角度から撮影する際に、画面上に歯の輪郭(outline of teeth)のoverlayを表示し、そのoverlayを利用して適切な位置・角度の画像を取得することなどが開示されていた。たとえば、撮影対象となる歯の輪郭を画面上に表示し、実際の歯の画像とoverlayとの位置関係等を利用することにより、適切な画像が取得されるよう撮影を補助する。この技術には、画像認識等を利用して歯の位置や画像の適切性を評価することも含まれる。
Dentalの409特許も、取得した歯列画像が適切かを分析し、基準を満たさない場合には撮影者に再撮影を促す技術であるため、AlignはCarrierをSalah及びDL(Deep Learning)技術を開示するManinisと組み合わせて自明性拒絶の根拠とした。PTABは、Alignが先行技術として依拠したCarrierの記載事項について、Carrieの仮出願にも開示されていると判断した。しかし、これだけでCarrierが仮出願日まで遡れるかが本件の法律上の問題となった。
4.PTAB(IPR)の判断 ―
Penumbraルール
USPTOの先例であるPenumbraによれば、AIA 102(d)(2)の下では、先行技術文献が仮出願日まで遡るためには、
ことで足りるとされた。
PTABは、pre-AIA 102条(e)項についてCAFCが判断した Dynamic Drinkware (Fed. Cir. 2015) のルールはAIA 102条には適用されないと考えた。Dynamic Drinkwareでは、仮出願日を先行技術日として利用するには、仮出願が後の本出願の少なくとも一つのクレームを米国特許法112条(a)項の「記述要件」を満たす形でサポートしている必要があるとされていた。PTABはこの追加要件をAIA 102(d)(2)には要求しなかった。
5.CAFCの判断 ― 「形式的要件だけでは足りない」
CAFCはPTABの解釈を否定した。AIA 102(d)(2)は、先行技術となる米国特許・米国特許出願が、“entitled to claim a right of priority under §119”であることを要求している。CAFCは、単に優先権を形式上「主張している」ことと、優先権を「主張する権利を法的に有している(entitled to claim: “主張する資格がある”)」こととは異なるとした。米国特許法119(e)(1)によれば、本出願が仮出願の利益を受けるためには、本出願の発明が仮出願に米国特許法112条(a)項の要件を満たす形で開示されていなければならない。したがって、AIA 102(d)(2)の “主張する資格がある” は単なる形式的要件ではなく、米国特許法119条(e)項を介して112条(a)項の「記述要件」という実体的要件を含むとCAFCは判断した。
したがって、米国特許(または米国公開公報)をAIA 102(a)(2) の引例として仮出願日まで遡らせるためには、次の3点が必要となる。
① Priorityの形式的要件
米国特許法119条(e)項に基づく優先権の主張(形式的・手続的要件)を満たすこと。
② 本出願の少なくとも一つのクレームについて「記述要件を満たすサポート」があること
仮出願が、後の本出願の少なくとも一つのクレームについて112条(a)項の記述要件を満たすサポートを提供していること。
③ 実際に先行技術として使用する特徴(記載事項)が仮出願に開示されていること
重要なのは、②と③は別の要件であるという点である。たとえばCarrierの仮出願に、Dentalに対して引用したい「歯のoutline overlayを用いた画像評価」が明確に記載されていたとしても、それだけでは足りない。Carrier 仮出願が、後の本出願(Carrier公開公報)の少なくとも一つのクレームについて§112(a)の「記述要件」を満たすサポートを提供していなければ、Carrierは仮出願日まで遡ることができない。
本件に関してPTABは上記②については必要な事実認定を行っていなかった。ゆえに、本PTABの審決を破棄差し戻す。
筆者コメント:
本判決により、仮出願等の基礎出願をAIA 102(a)(2)で規定する先願にするためには以下を確認する必要がある:
(1)
優先権主張は適切か?
(2) 基礎出願は引例の少なくとも一つのクレームを§112(a)でsupportしているか?
(3) 実際に引用する主題(開示)は基礎出願に記載されているか?
上記(1)~(3)は特許権者側からみれば、相手方(IPR請求人、または、再審査請求人)が提示するAIA 102(a)(2)の引例の日(有効出願日)を攻撃する新たな重要ポイントとなる。さらに、本件自体は米国仮出願に関するものであるがAIA 102(d)(2)は§119に基づく外国出願の優先権も対象としているため、同じ考え方は、日本基礎出願 → 米国出願・公開というケースにも原則として及ぶと考えられる。
本判決を適用する具体例
Carrier
本出願(引例として用いる):Claim 1 = A + B + C + D 、
Carrier
仮出願はA+B+Cを§112(a)のwritten
descriptionとして十分supportしているがDに関しては十分なサポートがない。
一方、IPR請求人がDentalの特許に対してCarrier本出願から利用したのが別の開示、「特徴X」とする。そして「特徴X」は仮出願に記載されている。
そうすると、
①
優先権の形式的な主張 → OK
② Carrier本出願のClaim 1 (A+B+C+D) → 仮出願で§112(a) のサポート無し→ NG
③ 自明性の根拠となる開示 X → 仮出願にも記載 → OK
となり、CarrierのXについて仮出願日まで遡れないということになる。
以上
WIPO Patent Application Pub’n WO 2016/066651 A1 (“Salah”);
U.S. Patent Application Publ’n 2021/0068923 A1 (“Carrier”);
a published paper on convolutional neural networks (“Maninis”)
Dynamic Drinkware, LLC v. National Graphics, Inc., 800 F.3d 1375 (Fed. Cir. 2015)
Penumbra Inc. v. RapidPulse, Inc., IPR2021-01466, 2023 WL 2605070 (PTAB Mar. 10, 2023)